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「ANCA 関連血管炎」について

1. 血管炎の分類と ANCA 関連血管炎

血管炎とは自己免疫により血管に炎症が起きる病気です。炎症の結果血管が狭くなっ たり、逆に「こぶ」のように拡張したり、あるいは血管の壁が破れてしまったりする ことで多彩な症状が認められるようになります。炎症を起こしている血管のサイズか ら表のように大型血管炎、中型血管炎、小型血管炎に分類されています。



(Arthritis Rheum 2013; 65: 1-11 より引用、一部改編)



ANCA 関連血管炎(ANCA-associated vasculitis: AAV)はこの分類の中で、小型の血管炎に分類され、細小動脈に炎症がみられます。AAV の中には顕微鏡的多発血管炎 (micorscopic polyangiitis: MPA)、以前ウェゲナー肉芽腫症と呼ばれていた多発血 管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis:GPA)、そしてチャーグ・ストラウス症候群と呼ばれていた好酸球性肉芽腫性血管炎(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis: EGPA)の 3 疾患があります。本邦では MPA の頻度が多く、50~ 60 歳以上の高齢者に多く発症します。難治性血管炎に関する調査研究班のデータベースでは、発症時の平均年齢女性は 71 歳でした。女性にやや多いと言われ、全国の年間発生数は約1,400人と推定されています。これら疾患では白血球に含まれるたんぱく質に対する自己抗体(抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody: ANCA)が認められることが多いため、共通の抗体に基づき ANCA 関連血管炎と総称されています。ANCA は免疫抑制治療とともに低下し、疾患の活動性を反映するという意見もありますが無関係の場合もよくあるため治療に当たっては総合的な判断をする必要があります。



2. ANCA 関連血管炎の症状

全身の毛細血管で炎症がおきるので、症状として発熱・体重減少・脱力感、全身倦怠感などがみられるようになります。なかなか診断がつかない発熱を不明熱といいますが、このように非特異的な症状をきたすことから血管炎はしばしば不明熱の原因となることが知られています。AAV は毛細血管を侵す血管炎ですので、毛細血管を多く含む腎臓、肺などに障害を起こします。この結果数週から数か月の経過で腎不全に至ることもある急進行性糸球体腎炎、喀血や呼吸困難で発症する肺胞出血、長引く咳や呼吸困難が認められる間質性肺炎といった合併症が問題に。その他目の強膜(白目の 部分)に炎症を起こし、充血する強膜炎、手足の先がしびれたり力が入りにくくなる 多発単神経炎、皮膚の紫斑や皮膚潰瘍などが認められることもあり、AAV の症状は多彩です。なかなか診断ができないこともある疾患ですが、数週以上続く発熱・倦怠感・ 体重減少に加えてこれらの多彩な症状が合わせてみられる場合は一度血管炎を疑って精査をする必要があると考えられます。

AAV の中でも、MPA、GPA、EGPA の間には少しずつ特徴に違いがあります。MPA は腎に 好発する血管炎ですが、他の 2 疾患と異なり肉芽腫という炎症細胞、壊死組織の塊をつくることはありません。GPA では血管炎に加えて、しばしば肉芽腫を形成し、結節病変を作ることでも臓器障害を起こします。頭頸部、肺、腎臓の 3 臓器の組み合わせで侵されることも特徴です。EGPA は気管支喘息などアレルギー疾患が先行することが 特徴で、血液検査でもアレルギーの際に認められる好酸球の増多や IgE の上昇が認められます。



3. ANCA 関連血管炎の診断

先ほど示しましたように、一見脈絡のない多彩な全身症状を呈する発熱をきたした患者さんでは、まず血管炎を疑うことが重要です。血管炎と鑑別すべき疾患として感 染症、悪性腫瘍、その他の膠原病が挙げられるので、これらの除外診断も行います。 血液検査では貧血や CRP など炎症反応の上昇が認められますがこれらは非特異的な所見であり、先ほど紹介した自己抗体である ANCA を参考にします。ANCA は P-ANCA と C-ANCA の 2 種類存在することが知られていますが、ANCA 関連血管炎ではいずれかの ANCA が半数以上で陽性になると言われており、診断の一助となります。注意しないといけないのは、ANCA はバセドウ病の治療薬など一部の薬剤でも陽性となることがあるため、最終的には組織で血管炎の所見を確認することが重要です。中型血管よりサイズの大きい血管が侵される場合は血管影などの検査を行い、直接狭くなったり拡張したりした血管をみることで血管炎の確認ができるかもしれません。しかし ANCA 関 連血管炎で侵される血管は顕微鏡で見えるレベルの血管になります。このため一般的には腎生検や皮膚生検などによる組織検査が重要になってきます。炎症反応、臓器症状に加えて生検結果で血管炎が証明された場合、ANCA 関連血管炎の確定診断となりま す。



4. ANCA 関連血管炎の治療

ANCA 関連血管炎の治療は疾患の重症度や年齢によって異なります。肺胞出血や急に進行する腎障害など重症例では、大量ステロイド薬+シクロホスファミドの併用による免疫抑制療法を基本とし、最重症例ではこれに血漿交換療法が加わります。関節症状や神経炎のみの場合は軽症型に分類され、内服のステロイド薬で治療します。 ANCA 関連血管炎の治療において重要なのは免疫抑制と感染症を起こさないようにすることとのバランスです。ステロイドとシクロホスファミドによる治療は強く免疫を抑える治療になりますので、ご高齢の方や、すでに腎障害が進行している方では感染症の発症に特に注意が必要です。厚労省の研究ではこのような治療方針により 89.4%の患者さんが寛解したと報告されています。感染症を予防するため ST 合剤と呼ばれる肺炎の予防薬を内服したり、骨粗鬆症を予防するためのお薬を処方されることもあります。

最近 GPA と MPA に対してリツキシマブによる治療が承認されました。米国で実施された臨床試験では、リツキシマブはシクロホスファミドと効果は同等、副作用もほぼ 同等で、感染症のみリツキシマブ群に発現頻度が高い傾向にありました(36% vs. 27%)。特に GPA の患者さんではシクロホスファミドの投与が長期に及ぶことがあり、 長期大量投与時の副作用である発がんが問題になります。また腎障害のある患者さんにはシクロホスファミドは使いにくいということもあり、このような患者さんに対してリツキシマブはシクロホスファミドの代用として大変期待される治療と考えられています。



5. 病気の経過

病気の初期にしっかりと治療すれば、8 割以上の患者さんの血管炎症は治まります。 しかし、治療が行われないと生命に危険がおよぶこともある病気ですので出来るだけ早い時期に診断し、治療することが重要です。少数の方ですが肺胞出血で人工呼吸が必要になったり、腎不全で透析が必要になったりする方もいます。末梢神経炎に伴うしびれや痛みは、数年以上残ることが多いです。また、病気は再燃することがありますので、定期的に専門医の診察を受け、きちんとお薬を継続して下さい。



6. 日常生活の注意点

感染症に対する注意が最も重要です。帰宅時には、手洗い・うがいを欠かさずに実行してください。インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンの接種も可能な限り受けましょう。規則正しい生活と食事を維持してください。特にステロイドが多い時期(1 日 15~20 mg以上内服)は発熱、咳、息切れなどの症状に注意し、2,3 日で悪くなってくるようなら無理せず一度病院を受診することが推奨されます。

 

北陸リウマチ膠原病支援ネットワーク パンフレット 第3版より引用

執筆協力者(順不同) 加藤真一(上荒屋クリニック)、長谷川稔(福井大学)、梅原久範(長浜病院)、

清水正樹、山田和徳、 鈴木康倫、藤井博、川野充弘(以上金沢大学)



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