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シェーグレン症候群について(最新情報)


シェーグレン症候群とは

 シェーグレン症候群(Sjögren syndrome)とは、1930年にスウェーデンの眼科医、Henrik Sjögren博士が乾燥性角結膜炎に高度の耳下腺腫脹を伴った関節リウマチの女性患者を報告したことに始まります。彼は、さらに同じような症状の患者19例をとりまとめ、自分の学位論文として発表しました。その結果、世界中から同様の患者が報告され、一つの疾患として認知されるようになりました。


 シェーグレン症候群(SS)は、主に中年女性に好発し、涙腺,唾液腺を標的とした自己免疫疾患であると理解されています。教科書的には、男女比が1:14と圧倒的に女性に多く、発症のピークは50歳台と言われています。私自身は、多くのシェーグレン患者さんを診てきまして、症状が完成するのが中年以降であって、本当の発症はもっと若年と考えています。  


 主な症状は、口腔乾燥(ドライマウス、80%)と眼乾燥(ドライアイ、70%)です(図1)。病気として気がつかなかったり、我慢したりして受診されない方も多く、未診断例も含めると全国の患者数は20万人以上と考えられています。


 シェーグレン症候群は、他の膠原病との合併がない原発性シェーグレン症候群と他の膠原病や関節リウマチに合併する二次性シェーグレン症候群に分類されます。そして、唾液腺・涙腺以外に、腺外病変と言われる多発関節痛、リンパ節腫脹、レーノー現象、慢性甲状腺炎、間質性肺炎、間質性腎炎、腎尿細管アシドーシス、萎縮性胃炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎など多彩な臓器病変を合併される方もおられます。


図1.シェーグレン症候群の乾燥症状





シェーグレン症候群の検査

 シェーグレン症候群の診断に必要な4つの検査法について解説致します。


1)口腔乾燥症状検査法:

 ドライマウスの患者さんは、「口が渇く」、「日常会話がしにくい」、「味覚が分からない」、「口内が痛い」、「虫歯が増えた」、「口の渇きのため夜間に目が覚める」などの症状を訴える方が多いです。唾液の量は、口内に分泌される唾液を注射器で吸い取る非刺激唾液流出量で測定します。1分間に0.1ml以下だと陽性です。日本では、ガムテスト(10ml/10分以下で陽性)やサクソンテスト(ガーゼを1秒間に1回噛みガーゼの重さが2分間で2g以上増加しなければ陽性)がよく行なわれますが、これは刺激唾液分泌試験とよばれ、欧米では正式には採用されていません。


2) 眼乾燥症状検査法:

 ドライアイの患者さんは、「涙が出ない」、「目がころころする」、「目が痒い」、「目が疲れる」、「まぶしい」などを訴えられます。涙液の減少がその原因なのですが、その検査法として、ろ紙の小片を瞼に掛け涙の量を測定するSchirmerテストがあります。5分間で5mm以下は陽性です。眼乾燥の結果、角膜にびらんができます。その評価としてローズベンガル染色、リサミングリーン染色、蛍光色素染色による角膜染色試験があります。


3) 口唇小唾液腺生検:

 シェーグレン症候群は、自己免疫機序による涙腺・唾液腺の破壊に伴う口腔乾燥・眼乾燥を呈する病態と定義され、薬物やストレス等の精神状態に伴うドライアイ・ドライマウスとは区別されています。免疫機序が存在する確定診断のために口唇小唾液腺生検が行われます。これは、下口唇を麻酔した上で、唾液腺組織を摘出し、小葉内導管周囲に50個以上のリンパ球浸潤を認めた場合に1フォーカスとして、4㎟に1フォーカス以上あれば陽性とします。


4)血清検査:

 前述したようにシェーグレン症候群は自己免疫疾患ですので、特徴的な自己抗体である抗SS-A/Ro抗体が患者さんの70%程度に、SS-B/La抗体は30%程度に出現します。また、特異的ではありませんが、抗核抗体が患者さんの80%で、リウマチ因子は70%で陽性にでることがあります。


シェーグレン症候群の診断  

 シェーグレン症候群の診断は、日本では1999年版の厚生労働省シェーグレン症候群改訂診断基準が用いられてきました。他にも10種類ほどの診断基準が存在しており、国によって異なる基準で診断されていました。


 それで、シェーグレン症候群の診断精度の向上と世界的な病態・病因解明の研究のために世界統一の診断基準の制定を目的に、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のTroy Danniel博士とJohn Greenspan博士がNIH(米国国立衛生研究所)の財政援助を受け、2003年にシェーグレン症候群国際登録機構(Sjogren Syndrome International Collaborative Clinical Alliance:通称SICCA)という国際プロジェクトを立ち上げられました。このプロジェクトに、コペンハーゲン大学(デンマーク)、ブエノスアイレス大学(アルゼンチン)、協和医科大学(中国)、そして金沢医科大学(日本)の5カ国が加わりました。2007年にキングスカレッジロンドン校(英国)、2009年にアラバイン眼病院(インド),ジョンズホプキンズ大学(米国)、ペンシルベニア大学(米国)も加わり7カ国9施設となりましたSICCA(シッカ)プロジェクトの目的は、シェーグレン症候群が全身性の多臓器自己免疫性疾患であるとの共通認識の上で、

1)リウマチ科、眼科、歯科口腔外科の3科のエキスパートが合意し、

2)客観的なデータに基づいた解析を行い、

3)2年後の変化を考慮に入れて解析し、

4)多国が協調して国際統一診断基準を作成することでした。10年の年月をかけて、各国がシェーグレン症候群診断のために必要な全ての検査データを米国事務局に登録しました。私も、日本事務局代表として400名以上の患者様に金沢まで来て頂き診察と全ての検査を受けて頂きました。膨大なデータをコンピューター解析し、2016年のサンフランシスコ合同会議(図2)でSICCA統一診断基準が出来上がりました1)。これを叩き台として、現在の国際的な診断基準であるアメリカリウマチ学会(ACR)/ヨーロッパリウマチ学会(EULAR)合同シェーグレン症候群分類基準が発表されました2)(表1)。


図2. 2016年のサンフランシスコ合同会議




治療法と今後の展望

 現在行われているシェーグレン症候群に対する治療法は、眼乾燥には各種の点眼薬(ヒアレイン、コンドロン、マイティア、ソフトサンティア、ムコスタ、ジクアスなど)や涙点プラーグ挿入による角膜保護が中心になっています。ドライマウスに関しては、保湿や水分補給に加え、唾液分泌促進効果のあるサラジェン、エボザックが用いられています。しかし、いずれも対症療法の域で、根本治療ではありません。これまで、多くの患者さんの口唇生検を判定してきました。中には、フォーカススコアーが4点以上、10点に近い方もおられます。この数値が高いということは、唾液腺破壊が現在急速に進行していることになります。いつも、今のうちにシェーグレン症候群を止める薬があればと忸怩たる思いです。まだ。確立した治療法ではありませんが、私は、進行の早い患者さんにはステロイドと免疫抑制剤の治療を行っています。


 今後、世界共通の診断基準を用いて、そして、各国が協力してシェーグレン症候群に対する新薬や治療法が開発される事を望んで止みません。


2022年6月

執筆 梅原久範先生(市立長浜病院)


 

文献

  1. Shiboski S, Shiboski C, Criswell L, Baer A, Challacombe S, Lanfranchi H, et al.: American College of Rheumatology Classification Criteria for Sjogrens Syndrome: A Data-Driven, Expert Consensus Approach in the Sjogren's International Collaborative Clinical Cohort. Arthritis Care & Research. 64(4):475-787, 2012.

  2. Shiboski CH, Shiboski SC, Seror R, Criswell LA, Labetoulle M, Lietman TM, et al.: 2016 American College of Rheumatology/European League Against Rheumatism classification criteria for primary Sjogren's syndrome: A consensus and data-driven methodology involving three international patient cohorts. Ann Rheum Dis. 76(1):9-16, 2017.





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