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「強直性脊椎炎」について

1. 病気の概要

強直性脊椎炎は、脊椎関節炎という広い疾患群に含まれます。脊椎関節炎の主な症状は、その名の通り脊椎、身体の軸をなす背骨の炎症に伴う疼痛ですが、手足の関節炎(脊椎の症状を”軸性”と表現するのに対して、”末梢性”と言います)や、腱・靭帯が骨にくっつく部分の炎症(付着部炎)、指の腫れ(指趾炎)も来すことがあります。

脊椎関節炎は、脊椎の症状が目立つ症例である軸性脊椎関節炎、関節炎・付着 部炎・指趾炎など手足の症状が目立つ症例である末梢性脊椎関節炎の 2 つに分類され、強直性脊椎炎は軸性脊椎関節炎に含まれます。強直性脊椎炎は、脊椎の中でも特に腰から臀部にかけて(仙腸関節と腰椎)を侵す慢性進行性のリウマチ性 疾患です。多くが 30 歳前の若年者に発症し、進行すると脊椎が 1 本の棒のように硬く”強直して”姿勢や動きが損なわれる可能性があります。

原因は不明ですが、HLA-B27 という遺伝子との関連が報告されています。この遺 伝子を持っている方は日本人には少ないこともあり、欧米に比べて本疾患に対する医師の認知度が高くはありません。一方、日本における脊椎関節炎の有病率は 関節リウマチと同等であるという調査報告もあり、実際には診断が遅れたり、正 確に診断されていない患者さんもいらっしゃると言われています。

治療は関節リウマチと同様に生物学的製剤の適応が承認されており、また発症早期例で有効性が高いというデータも存在することから、他の疾患と同様に早期診断・早期治療の重要性が見出されつつあります。



2. 症状

腰痛、背部痛が最も重要な症状です。誰でも腰や背中に痛みを感じることはあ り、風邪について病院を訪れる理由の 1 つです。”よくある”腰痛のほとんどは、 治療なしでも自然と良くなってしまいます。そのような腰痛患者さんの中から、 強直性脊椎炎患者さんを見逃さないためには、まずは問診が重要です。

強直性脊椎炎でみられる痛みは、炎症性腰痛と呼ばれ、”よくある” 腰痛とは区別されます。1. 腰痛の発症が 40 歳以下、2. 発症が緩徐、3. 運動で軽快する、 4. 安静で軽快しない、5. 夜間痛(起き上がると軽快)という5つの特徴のうち、 4 つを認める場合を炎症性腰痛と呼びます。御自分が腰痛を感じた時のことを思い 出して頂くと、動くと痛みが強くなり、寝て休むと痛みは軽くなったと思います。 炎症性腰痛はこの逆の特徴がありますので、長時間同じ姿勢を維持するのが大変、 寝返りが辛い、朝起きてから動き始めるまで時間がかかるが (朝のこわばり) 日中はあまり痛みは気にならない、といった訴えになります。若年時にじわじわと発症するという特徴があり、また数日痛みが続いた後に症状が消失することもあ りますので、”腰痛持ち”として見逃されている方もいます。痛みの場所も重要です。腰椎の一番下の骨は仙骨という骨盤の後ろ側にある骨に乗っかっており、 この仙骨と腸骨(いわゆるこしぼね)の間は仙腸関節と呼ばれ、強直性脊椎炎で典型的に侵される関節です。この部位は”腰の痛み”といってもお尻(臀部)で あり、関節は左右両側にあることから、左右交互、あるいは両側の臀部痛として 感じられます。このように腰痛について、部位や痛みの質、日常生活への影響を 詳しく問診することが重要です。

関節リウマチは骨が破壊される病気ですが、進行した強直性脊椎炎では骨破壊の後、修復を経て新生します。骨の変化によって、脊椎は強直し、動きが硬くなります(可動域制限)。具体的には、頸椎が硬くなると運転中の後方確認する際に” 首が回らず”、腰椎が硬くなると前屈みができなくなるため立ったまま靴下を履 けない、などの症状として感じられます。骨が硬くなって丈夫になれば良いので すが、中身はむしろ骨粗しょう症になるためチョークのように折れやすく、椎体骨折にも注意が必要です。

また前述した通り、手足の関節炎も認められます。関節リウマチでは 9 割の患者さんで手指に症状が出ますが、一般に脊椎関節炎では下肢の関節炎が多いです。 腱や靭帯が付着する部位の炎症である付着部炎では、アキレス腱が付着する踵骨 のピンポイントの圧痛が特徴的で、朝起きて踵をついた時の痛みや女性では高いヒールを履けないなどの症状が出ます。指全体がソーセージのように腫れ、指輪が入らなくなるなど指趾炎の症状もみられます。

その他、ぶどう膜炎など眼の炎症、心臓(大動脈弁閉鎖不全症、伝導障害)や 肺など、関節以外の全身に病変が出現する場合もあります。



3. 診断

強直性脊椎炎は 2015 年に医療給付対象疾患に指定されました。対象疾患を診断する条件としては、1984 年に定められた改訂ニューヨーク基準という古い基準が採用されています。腰背部の疼痛と可動域制限といった臨床症状に加えて、仙腸関節の単純レントゲン写真で異常を認めることが必須条件です。しかし、写真の異常が出るのは仙腸関節炎発症から 3~7 年かかると言われており、この基準を用いると診断、治療に遅れが出てしまいます。

そこで、2009 年に提唱された新たな基準では画像検査として仙腸関節の MRI が採用され、早期診断が可能になりました。新しい基準を用いて単純レントゲン写真で異常の出ていない患者さん(non-radiographic)を早期診断し、関節リウマチと同様、関節破壊や機能障害を抑えるために早期治療を行うことが望ましい のですが、制度上はこのような方は医療給付の対象から外れてしまいます。

画像検査の進歩は著しく、MRI や PET が役立つことが報告されていますが、性能が良く些細な所見も異常に見えてしまいますので、過剰診断には注意が必要で す。採血検査でも、CRP などの炎症反応が陰性であることが少なくありません。 HLA-B27 という遺伝子も自費で検査でき、新しい診断基準にも採用されていますが、前述の通り日本人では頻度が少ないので、検査が外れても病気ではないとは 言えません。

診断は専門医が総合的に判断しますが、結局は家族歴も含めた詳しい病歴に加え、痛みの場所を診察で正確に把握するという、医学の基本に立ち返ることが最も重要です。



4. 治療

治療の目標は、関節リウマチと同様に炎症の抑制ですが、強直性脊椎炎では骨が新生して硬くなる骨病変が抑制できるかどうかも課題です。

治療の第一選択は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)です。頓服よりも持続投与で骨病変の進行抑制効果があるというデータがあります。軸関節炎(脊椎の病変)に対しては、経口の抗リウマチ薬やステロイドの使用は推奨されていません。

TNF 阻害薬は、少なくとも 2 種類以上の NSAIDs を 4 週間以上使用しても効果が なく、BASDAI という疾患活動性スコアが 4 点以上の患者さんでの使用が推奨され ています。炎症の抑制に加え、早期からの使用で骨病変も抑制できる可能性が報 告されつつあります。特に CRP 陽性の人、MRI で異常を認める人、発症早期の人で有効性が高いとされています。TNF 阻害薬の休薬についても研究が進められており、関節リウマチと同様にいわゆるバイオフリーの可能性が期待されます。

骨新生に関わる分子メカニズムの研究から、新しい治療薬の開発も進められて おり、治療成績の改善が期待されます。

リハビリテーションは関節リウマチ以上に有効であることが知られています。 健康状態を保つためにプールでの運動や体操なども有効ですが、適切な指導のもとで行う必要があり、必ず医療機関で相談下さい。

膠原病全般に通じることですが、強直性脊椎炎は慢性の疾患であり、患者さんと医療従事者が良い関係を保ちながら、症状や治療目標について話し合い、診療を進めていくことが重要です。



 

北陸リウマチ膠原病支援ネットワーク パンフレット 第3版より引用

執筆協力者(順不同) 加藤真一(上荒屋クリニック)、長谷川稔(福井大学)、梅原久範(長浜病院)、

清水正樹、山田和徳、鈴木康倫、藤井博、川野充弘(以上金沢大学)

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